サプライチェーンのBCP対策とは?策定の重要性や具体的な対策事例をご紹介
BCPサプライチェーンの策定は、緊急時の事業継続に非常に重要です。
未策定のうえなにも対策していない場合、生産停止や売り上げ減少などさまざまな影響が考えられます。
そこで本記事では、緊急時でも事業を継続するためのBCPサプライチェーンについて説明します。
また、購買管理システムを活用したBCPサプライチェーン作成の支援についてもご紹介しています。
BCPサプライチェーンの負荷軽減やリスクとなる事態が生じたときにも正確に物流の状況を管理したいといった課題・要望を感じている企業様は、ぜひ最後までご覧ください。
BCPとサプライチェーンの関係とは?
BCPとは、事業継続計画のことであり、企業が災害などの緊急事態に遭遇した場合、損害を最小限に抑えて事業の継続・早期普及を図るための計画のことです。
そして、サプライチェーンとは製品の原材料・部品の調達から販売に至るまでの一連の流れのことを指します。
災害などの緊急事態においては、商品の流通にも大きな影響が生じかねないため、BCP策定の際にはサプライチェーンを含めることが非常に重要です。
BCPの定義と目的
BCPとは、中小企業庁によると以下のように定義されています。
「BCP(事業継続計画)とは、企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期普及を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段を取り決めておく計画のことです。」
引用:中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針」
つまり、企業が緊急事態に遭遇した場合、事業継続のための方法や手段を取り決める目的で作成される計画のことです。
BCPの策定と実行により、災害などの緊急事態に遭遇しても被害を抑えて早期復旧できるようになります。
サプライチェーンにおけるBCPの重要性
製品の原材料・部品の調達から販売に至るまでのサプライチェーンにおけるBCPの策定は、緊急事態発生時の損害を最小限に抑えるために非常に重要です。
仮に自社の工場や倉庫が被害に遭わなかったときでも、仕入れ先や取引先が被害に遭って正常な業務ができない場合には、商品の仕入れに直結します。
生産停止を回避するには、事前にBCP対策の策定が不可欠です。
サプライチェーンが直面するリスク
サプライチェーンが直面するリスクとして、近年では以下の3つが注目されています。
・自然災害
・感染症
・サイバー攻撃
もちろん、これら以外のリスクも当然あります。
そのほかのリスクについて詳しく知りたい方は、「サプライチェーンリスクとは?事例と効果的な軽減対策を徹底解説」をご覧ください。
自然災害
震災や自然災害の影響により、サプライチェーンに深刻な影響が生じることがあります。
例えば、自動車メーカーの「マツダ」は、2018年に発生した西日本豪雨によって生産台数が減りました。
豪雨による生産設備への直接被害はありませんでしたが、鉄道・道路が寸断された影響により工場従業員の通勤に支障が出てしまい、8~9月にかけて生産量を通常より抑えて操業しました。
その結果、損失額は約280億円になったとのことです。
このように、自然災害の被害を直接受けなくても、その影響を受けてしまったことでかなりの損失につながることもあります。
さらに経済のグローバル化により海外の企業や工場との取引が増加し、従来以上に自然災害へのリスク対策が必要とされています。
感染症
新型や変異株など、感染症によるパンデミックにより経済損失が発生するリスクもあります。
例えば、2020年に感染が拡大した「新型コロナウイルス感染症」による損失です。
製造業から飲食・観光業など、幅広い業種に影響が広まり、倒産した会社も少なくありません。
東京商工リサーチが2020年6月に発表した調査によれば、新型コロナの影響や対応などを情報開示した上場企業は3,427社であり、業績の下方修正を発表したのは898社、そのうち赤字は248社であったことがわかりました。
サイバー攻撃
サイバー攻撃には、ビジネスサプライチェーン攻撃・サービスサプライチェーン攻撃・ソフトウェアサプライチェーン攻撃の3つがあり、それぞれ攻撃手口が異なります。
・ビジネスサプライチェーン攻撃:関連組織・子会社・取引先などを侵害してからターゲットである組織を侵害しようとする攻撃
・サービスサプライチェーン攻撃:サービス事業者を侵害してサービスを通じて顧客に被害を及ぼす攻撃
・ソフトウェアサプライチェーン攻撃:ソフトウェアやアップデートプログラムに不正コードを混入して侵入する攻撃
また、サプライチェーンでつながる関係先がサイバー攻撃を受けたことで、自社も損失を受けるケースもあります。
ビジネスサプライチェーン攻撃を受けた場合、8割以上でシステム停止が発生するとの情報もあります。
システム停止によって業務に支障が出ることはもちろん、情報が流出してしまえば信用問題に関わるため、サーバー攻撃は事業継続に大きな影響を与えるリスクが高いといえるでしょう。
サプライチェーンの寸断が企業活動に与える影響
サプライチェーンが寸断された場合、生産停止・納期遅延・売り上げ減少などに影響する可能性があります。
それぞれの具体例をご紹介するため、自社にも同じような影響が出る可能性はないかイメージし、対策の必要性が高いかどうか検討してください。
生産停止
サプライチェーンが寸断されると、まず初めに考えられるのが生産停止の可能性です。
原材料や部品の供給がなくなれば、生産を停止せざるを得ません。
例えば、2000年に発生した東海豪雨によって生産停止し、損失が発生した例には自動車メーカーの「マツダ」と「トヨタ」があります。
東海豪雨により、マツダは四国地方の2工場の生産を一部停止、トヨタ自動車は全国24工場で生産停止し、完成車ベースで約17,000台の生産が見送られました。
納期遅延
次に考えられるのは、納期の遅延です。
災害などによって製造に必要な原材料や部品が足りなかったり、製造されなかったりすれば、当然納品時期に遅れが生じてしまいます。
例えば、2020年に発生した新型コロナの影響を受け、2021年は半導体や電子部品の不足・素材の高騰が発生し、納期が遅延しました。
これは、急速な経済活動の停止と再開などにより、世界中で需給パランスが崩れたことが原因です。
テレワークなどリモート環境が普及し、巣ごもり重要での家電・ゲーム機・PC需要の増加、5Gスマートフォン端末関連の拡大などにより、さまざまな領域での半導体が不足しました。
また、半導体は発注から納入までの時間が長い部品であることも理由の1つでしょう。
半導体を使う製造業では生産能力の2~3か月分の在庫を確保している場合も多いですが、それ以上に半導体の納入が遅れれば、製品を製造することができません。
売り上げ減少
3つ目に考えられるのが、売り上げの減少です。
半導体の例では、納期の遅延だけではなく、関連企業の売上にも直接大きな影響を及ぼしました。
製品を希望する消費者がいても共有が追いつかないことには売上にならず、機会損失が生じます。
さらに悪いケースとしては、競合他社はサプライチェーンが機能している状況下で自社の商品のみ物流がストップした場合には、顧客が他社に流れるケースも考えられます。
上記のように、大規模もしくは長期的なサプライチェーンの寸断が生じると、売上にも大きな影響を及ぼすことがあります。
サプライチェーンにおけるBCPの策定と対策
サプライチェーンにおけるBCPの策定プロセスと、具体的な対策についてご紹介します。
購買管理システムを活用した作成の支援についても触れているため、作成を検討している方はぜひご覧ください。
サプライチェーンにおけるBCP策定プロセスとポイント
まず、BCPの策定プロセスについて理解しましょう。
事業継続計画を立てることはもちろん、事前対策や教育・訓練・見直しの実施計画も立てなくてはいけません。
さらに、社内に着実に定着させるため、内閣府の事業継続ガイドラインでは以下の手順を繰り返して実施するよう記載されています。
- 方針の策定
- 分析・検討
- 事業継続戦略・対策の検討と決定
- 計画の策定
- 事前対策と教育・訓練の実施
- 見直し・改善
また、BCP策定時には以下4つのポイントにも注意してください。
・事業中断によるリスクの評価
・代替調達先の確保
・在庫管理
・情報共有体制の構築
事業中断によるリスクの評価
1つ目のポイントは、事業中断によるリスクの評価です。
事業中断によるリスクの評価は、以下の観点から事業停止時の影響の大きさと変化を時系列で評価します。
・利益・売上・マーケットシェアへの影響
・資金繰り
・顧客の事業継続の可否・取引維持
・従業員の雇用・福祉
・法令・条例・契約・サービスレベルアグリーメントなどの違反
・自社の社会的な信用
・社会機能の維持
代替調達先の確保
2つ目のポイントは、代替調達先の確保です。
災害などを想定したうえで、調達先の分散や代替調達先の確保により、リスクを分散します。
ただし、複数の調達先における同時被災や2段階以上先の調達先が同一となり、そこが被災する可能性にも留意しましょう。
そのほか、汎用部品の使用など設計仕様における考慮を行い、代替調達の簡素化を行うこともポイントです。
在庫管理
3つ目のポイントは、在庫管理です。
適正在庫の見直しや在庫場所の分散化により、供給を継続するための策を立てます。
特に、製造に時間のかかる部品などは災害発生時の生産停止を回避するため、余分に在庫を確保することなどが必要です。
情報共有体制の構築
4つ目のポイントは、情報共有体制の構築です。
サプライチェーンリスクマネジメントには、参加企業間でネットワークを構築することが必要になります。
そのため、サプライチェーンにおけるBCP策定時に情報共有システムの導入と運用など、情報共有体制についてどのように構築するか定めましょう。
なお、情報共有システムを導入する際は、リスクについてもある程度共有する必要があります。
売れ行きや店頭在庫などの社外秘とされる情報の取り扱いについては、優先してルールを設けてください。
サプライチェーンにおけるBCPの具体的な対策事例
サプライチェーンにおけるBCPの具体的な対策事例としては、以下の4つが挙げられます。
・複数サプライヤーの確保
・在庫拠点の分散
・輸送ルートの多様化
・情報共有システムの導入
複数サプライヤーの確保
資材や部品の調達時に複数のサプライヤーを確保していれば、一方からの供給が難しくなっても生産を続けられます。
2社以上のサプライヤーから購買するこの手法は「二社購買」と呼ばれ、資材供給の寸断を回避することのほかに、原価の削減や納期遅延の防止、優位に交渉を進めやすくなることなどのメリットがあります。
在庫拠点の分散
適切な在庫管理はもちろん、在庫拠点を分散化することでリスクに備えることが可能です。
もしAの拠点が何らかの災害に遭っても、Bの拠点から在庫を供給することで生産停止や売り上げの減少を回避できます。
例えば、耐圧ホースメーカーのトヨックスの場合、国内2か所・海外3か所に在庫拠点を分散化するとともに、普及想定期間分の在庫を増やすことで、安定して納品できる体制を構築しています。
輸送ルートの多様化
災害や感染症によるパンデミックを想定し、輸送ルートを多様化している企業も多いです。
例えば、以下のように対策している企業もあります。
・航空輸送から海上輸送へ変更
・物理的に近い距離に拠点を置くようサプライヤーを説得
・出荷ごとに輸送方法を検討
・通行止めエリアにあるトラックフレートステーションターミナルを一時的に非被災地域に移動
クラウドを活用したBCP対策
情報漏洩を防ぐためには、クラウドを活用したBCP対策がおすすめです。
クラウド型の購買管理システムなどを利用すれば、データ消失のリスクが低い、社外で仕事ができるなどのメリットがあります。
【BCP対策にクラウドを活用するメリット】
・データ消失のリスクが低い
・オフィスに出社できなくても社外からシステムにアクセスできる
・導入費用を抑えられる
・柔軟にシステムを運営できる
【BCP対策にクラウドを活用するデメリット】
・ネットワークが遮断されるリスクがある
・セキュリティ強度がサービス提供事業者に依存する
購買管理システムを活用したサプライチェーンにおけるBCP作成の支援
サプライチェーンにおけるBCP作成時には、購買管理システムが便利です。
搭載された機能を利用すれば、BCP作成時に必要な以下の作業を支援してくれます。
・サプライヤーの情報管理
・リスク分析
・代替調達先の選定
サプライヤー情報の管理
購買管理システムには、取引先管理などサプライヤー情報を管理する機能が搭載されています。
いつどのような取引をしたか確認できるため、サプライヤーに合わせてより具体的な対策を立てやすくなります。
具体的に管理しておきたい情報は、以下のとおりです。
・サプライヤー情報:企業名・所在地・連絡先・担当者情報など
・取引履歴:過去の取引履歴(発注内容・納期・価格・品質など)を記録して、サプライヤーごとのパフォーマンスを評価
・リスク情報:サプライヤーの財務状況・自然災害リスク・自然災害リスクなど
これらを一元管理することで、サプライヤーの選定や評価の際のリスク管理を可視化・効率化できます。
リスク分析
購買管理システムでは、サプライヤー情報や取引履歴などのデータを活用して、リスクを分析できます。
リスクの種類は、以下のように細分化できます。
・サプライヤーリスク:サプライヤーの財務状況などによるリスク
・地域リスク:サプライヤーの所在地や輸送ルートによるリスク
・製品リスク:特定の製品の供給リスク
これらのリスク分析結果に基づいて、代替調達先の選定や適正在庫の調整などに活用できます。
代替調達先の選定
特定のサプライヤーに依存する体質から脱却し、いざという時のために備えるためには代替調達先の選定が必要です。
購買管理システムに複数のサプライヤーをデータベースに登録して、価格・納期・対応の詳細などをデータ管理することで、効率的かつ理にかなった調達先を選定できます。
データベースを閲覧できるようにしておけば、緊急時においても購買管理システムを活用することで、スピーディーに最適な調達先を選定できます。
サプライチェーンにおけるBCPの運用と見直し
サプライチェーンにおけるBCPの運用と見直しに関しては、定期的な見直しと更新が必要です。
不十分な内容のBCPをそのままにすると、緊急事態発生時に効果が発揮されません。
BCPの見直しと更新の重要性
BCPは、防災訓練などのタイミングや、事業内容・環境に変化があったタイミングでの見直しが必要です。
事業内容や規模・環境が変化してもBCPの見直しを行わない場合、災害時のリスクに大きく影響し、機能しない可能性があるでしょう。
防災訓練などの定期訓練で見直しを行い、見つけた課題は影響度によって重要度・優先順位を決定します。
優先順位をつけたら、順番に対策を講じてください。
BCPの有効性を高める取り組み
BCPの有効性を高めるための取り組みとしては、訓練やシミュレーションの実施、サプライヤーとの連携強化の2つがあります。
どちらもすぐに実施できるものではないため、長期間で計画を立てて実施しましょう。
時間をかけて実施することで、社内への定着率が高くなります。
ここでは、主な取り組みについて記載します。
訓練やシミュレーションの実施
BCPを有効に活用するには、日ごろから従業員へBCP教育を行うことと、定期的な訓練の実施が不可欠です。
ただし、BCPを定着させるために全体を通した訓練をはじめから無理に行わないようにしてください。
着実に習得できるよう、現在実施している防災訓練に事業継続に必要な要素を加えたり、BCP発動手順の1部分をとりあげた訓練を実施したりして、段階を踏んで取り組みましょう。
また、BCP全体を通して行う訓練を実施する前に、以下の訓練も必要です。
・議論形式でメンバーごとの役割を確認し実際に活動できるか検討する机上訓練
・緊急事態発生時速やかに従業員に連絡できるか確認する電話連絡網・緊急時通報診断
・代替施設への移動訓練
・バックアップしているデータを取り出す訓練
サプライヤーとの連携強化
BCPを正しく機能させるには、関係者との連携が重要となります。
そのため、取引先や協力会社との連携を強化しましょう。
情報漏洩を防止しながら情報共有や支援を行い、サプライヤーとの連携を強化することで協力する文化を作り上げ、BCPが機能できるように日頃からコミュニケーションをとり、良好な関係を築いてください。
なお、SNS上でもコミュニケーションはとれますが、サプライヤーとの連携強化には、チャット機能が搭載されている購買管理システムの利用がおすすめです。
SNSよりセキュリティ強度が高いため、情報漏洩の防止にもなります。
まとめ
サプライチェーンの維持の面においても、BCP策定が不可欠です。
自然災害などの大きなトラブルは商品や部品の供給ストップに直結し、納期の遅延や売上の減少にも発展しかねません。
購買・調達部においてBCP策定のためにやるべきことは多数ありますが、効率的なBCP対策のために活用していただきたいのが購買管理システムです。
購買管理システムを運用することで、サプライヤーの情報や取引履歴などを一元管理して、必要な情報をいつでも検索したり、分析したりすることができます。
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